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第3回 PACTRIMS 参加報告

8月26日から28日まで, インドネシアのバリ島で開催された第3回環太平洋州アジア多発性硬化症会議年次総会 (pan-Asian Committee for Treatment and Research in Multiple Sclerosis, PACTRIMS)に出席してきました.
私は, “Non-inflammatory diseases masquerading as optic neuritis”という演題でポスター発表して参りました.

 (ポスターの前で)

 PACTRIMSはヨーロッパのECTRIMS (European-), アメリカのACTRIMS (American-), ラテンアメリカのLACTRIMS(Latin American-)のいわゆる兄弟分として, 2年前に発足したばかりの学会です. ECTRIMSはMSの本場なだけに参加者が5000人規模の大きな学会ですが, PACTRIMSは350人位とまだ小規模なものの, 毎年演題数も増え将来性を感じます. アジア各国のMS研究の状況が把握し易いのみでなく, 欧米の施設から現地のアジア人種のMSに関する発表も多数あり, 環境因子や遺伝的背景が及ぼす影響を考える上で興味深いものです. 以前よりアジアのMSは欧米のMSとは異なる点がある, しかし従来使用されている診断基準 (Poser, MacDonald )は主に欧米人のデータから作成されたもので, アジア人のMSに必ずしも適切でないことが指摘されてきました. しかし今年アイルランドで開催されたマクドナルド基準改定のためのInternational panelに出席された東北大学の藤原先生によりますと, アジアにおけるMS, NMOとマクドナルド基準が議題の一つとなったそうで, 将来的にはアジア人MSの診断基準が作成されるかもしれません. このような背景の中, アジアのMSに特化した国際学会が誕生した意義は大変大きいものと感じます. 京都の斉田先生をはじめ九州大学の吉良教授, 東北大学の藤原教授, その他日本のMS研究に携わってきた先生方の長年にわたるご尽力があってのことと思います.
 今回私は, 眼科から視神経炎 (ON)として紹介されてきた患者さんを診療する中で気がついた点を, 一部発表しました. 眼科領域で視神経炎の治療で根拠とされている論文にONTT (optic neuritis treatment trial)がありますが, これは以前から様々な問題が指摘されています. このtrialが始まった当初はNMO-IgGの存在は知られておらず, 例えば特発性ONやMSの視神経炎はステロイドパルスを繰り返して行わなくとも回復する例は確かに存在する(ただし回復したかどうかはあくまで結果論であることに注意が必要. 様子を見てしまったため回復が思わしくなかったと判断せざるを得ない症例も存在する), 一方でNMO-IgG陽性ONはステロイドパルスで反応がない場合, 血液浄化療法とその後の十分な免疫抑制が必要で, 特発性ONやMSと誤診して対応をしてしまった場合に失明してしまう危険性が高いことです. このことは眼科医である近畿大学の中尾先生も様々な学会で報告され, 注意を喚起されています. 目にしか症状が段階では「神経内科でなく眼科の病気だよね.」という声も聞こえてきますが, この領域についてはMS,NMOを診療する神経内科医が眼科医を啓蒙していく必要がありそうです. 今回発表した症例の一部は, 今後論文に仕上げようと思っています. あの空調が行き届かない, うだるような暑さの10番診察室の仕事から新たな論文が生まれたとすれば, 医師としては少し苦労が報われるといったところでしょうか.

 赤道近辺に位置するバリ島なので当初暑さが心配でしたが, 乾期だったこともあり前橋とは比較にならないほど涼しく快適な所でした. さわやかな風と圧倒的な自然に囲まれ「もしかして, ここはあの世?」と思った程です. いつかプライベートで, ゆっくり訪れたい場所です.

(林 信太郎)

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