2023510日 医局会で施行されたレフェラートの概要です。

今回は当科 古田みのり先生に発表いただきました。

‘’Clinical Aspects of the Differential Diagnosis of Parkinson's Disease and Parkinsonism’’

Shin HW, et al, J Clin Neurol. 2022;18(3):259-270.

DOI: 10.3988/jcn.2022.18.3.259

 

INTRODUCTION

病初期において、パーキンソン病(PD)と、パーキンソン症候群<進行性核上性麻痺(PSP)、多系統萎縮症(MSA)、大脳皮質基底核変性症(CBD)など>や薬剤性パーキンソニズムなどの二次性パーキンソニズムを鑑別するのは困難なことがある。鑑別診断において有用な臨床的特徴について確認する。

[Fig. パーキンソニズムの鑑別]

 

パーキンソン病(PD)の特徴

【運動症状の特徴】

  動作緩慢

   筋強剛:痛みと関連している場合があり、関節炎などと誤診されることがある

 安静時振戦:最初は片側性で46 Hzで四肢の遠位部で顕著に認める

       歩行中に増加し、腕が動いているときや睡眠中は消失する                           

姿勢反射障害:通常進行した患者に生じるが約20%は初期段階で生じる

【非運動症状】

 感覚障害、自律神経障害(便秘、尿失禁、起立性低血圧)、精神症状、認知機能障害など嗅覚喪失、うつ病、およびレム睡眠行動障害などの睡眠障害は運動症状の発症に先行する

【臨床症状における分類】

 振戦優位型または姿勢不安定性・歩行困難優位型に分類される。臨床経過は姿勢不安定性・歩行困難優位型の方が悪い。

【画像検査】

 DATイメージングはドーパミン作動性ニューロンの変性を高感度かつ特異的に検出でき診断に役立つ。

【診断基準】

 MDS診断基準(2015)による。

 

進行性格上性麻痺(PSP)の特徴

【症状の特徴】

 典型的なリチャードソン症候群では以下を認める。

 ・垂直性核上性注視麻痺

 ・直立姿勢を伴う顕著な体軸の筋強剛と3年以内の頻繁な転倒

 ・前頭葉性の認知機能低下 

 初期段階では核上性注視麻痺を伴わない非対称パーキンソニズムを呈するため、PDと誤診されることがある。自律神経障害はPSPではあまり生じない。

 日本から小脳失調を伴うPSP(PSP-C)が報告されているが非常にまれである。レボドパの反応性は一時的で限定的だが、PSP-Pの患者では長期的に効果がある場合がある。

【画像検査】

 FDG-PETによる前頭葉皮質、大脳基底核、視床、中脳の代謝低下は診断基準には含まれないが診断に有用である。

【診断基準】

 MDS診断基準(2017)による。

 

多系統萎縮症(MSA)の特徴

【疫学】

 欧米患者ではMSA-PMSA-Cの約4倍、中国ではMSA-PMSA-Cの約2倍。日本人患者ではMSA-Cが多い。

【症状の特徴】

 MSA-P患者の30%以上は初期に一過性のレボドパ反応性を示す。振戦はMSAで一般的でありミオクローヌス成分を含む姿勢時振戦の特徴的なパターンを呈する。

 RBD、睡眠時無呼吸、前頭葉機能障害(実行機能障害)、およびまれに幻視がMSA患者に発生する可能性がある。

 MSA患者に対する幹細胞治療での有望な結果が出ており、将来的に疾患修飾薬の開発が期待される。

【診断基準】

 MDS診断基準(2022)による。

 

大脳皮質基底核変性症(CBD)の特徴

 CBDは病理診断の際に用いられる病名であるが、死後病理学的研究により、CBD患者には幅広い臨床症状や徴候が存在する可能性がわかっている(進行性核上性麻痺症候群、前頭葉性行動・空間症候群、および非流暢/失文法型原発性進行性失語を含む)

 臨床診断においてはCBSと呼ばれ、CBDに加えてPSPFTD、アルツハイマー病などさまざまな病理を含む。

【症状の特徴】

 ・非対称性の運動失行

 ・非対称性の筋強剛および動作緩慢を伴う「the useless arm

  一部の患者では不随意の把持と目的のない動きを特徴とするエイリアンハンド現象を示す

 ・ジストニアおよびミオクローヌス

 レボドパの反応性はCBD患者の25%で報告されている。

 CBDの症状は、CBSから始まり、進行性核上性麻痺症候群や前頭葉性行動・空間症候群に進行するなど、病気が進行するにつれてある表現型から別の表現型に変化する可能性がある。

【診断基準】

 Armstrong(2013) があるが感度・特異度が高くないため新しい診断基準の探索が課題。

 

薬剤性パーキンソニズム

 PDに次いでパーキンソニズムの2番目に多い原因である。定型および非定型の抗精神病薬、胃腸運動薬、カルシウムチャネルブロッカー、および抗てんかん薬などが誘因となる。原因薬剤を服用後、数日から数年後にパーキンソニズムを発症する。

 通常は原因薬剤を中止後、数週間から数か月以内に改善するが、その後10%50%の患者で再び進行する。このような経過をたどる患者はPDの前臨床段階であったと考えられる。

【症状の特徴】

 通常症状は対称性であるが、患者の30%以上が安静時に非対称性の振戦を呈したとの

 報告がある。

 そのため臨床的特徴のみに基づいてPDと区別することは困難である。

【画像検査】

 DATイメージングで集積正常である点から鑑別できる。

 

血管性パーキンソニズム

【症状の特徴】

 上肢の症状が少ないか全くなく、顕著な歩行障害を伴う。

 PDと同様の小刻み歩行や、運動失調を伴うwide-based歩行、痙性歩行、すくみ足など

 幅広い歩行パターンを示す。

【画像検査】

 頭部MRIでは通常、広範な皮質下白質病変を示す。

【診断基準】

 専門家ワーキンググループは2018年に血管性パーキンソニズムを

 臨床的、解剖学的、および画像所見に従って以下の3つのサブタイプに分類している。 

 ①急性/亜急性脳卒中後

 ②緩徐進行性

 ③神経変性パーキンソニズムと脳血管障害の混合

 

特発性正常圧水頭症(iNPH)

【症状の特徴】

 歩行困難と下肢のパーキンソニズムは典型的な症状である。重度の前頭葉障害として知られる歩行(歩行開始困難を伴うwide-basedの小刻み歩行)を特徴とする。動作緩慢、筋強剛、姿勢不安定性はiNPH患者によく見られ、脳室拡大の重症度と相関している。

 歩行障害の特徴はあるものの、臨床状の類似性や、老年期の無症候性水頭症の存在、およびパーキンソニズムに関連する他の神経変性疾患との重複によりiNPHの診断は困難である。

【診断】

 iNPHを診断するための特異的な病理学的マーカーまたはバイオマーカーはないため、

 診断は画像所見とタップテストから成される。最近のレビューでは、タップテストにおける臨床的改善が、iNPH患者のシャント手術の長期転帰とは関連がないことが示唆された。

 加えてiNPH患者においてアルツハイマー病やパーキンソン症候群などの併存疾患の重要性が報告されているため、iNPHを診断し手術に適した症例を選択するためのバイオマーカーの確立が望まれる。

 

CONCLUSION

PDと他の疾患を鑑別するためには、各疾患の臨床的特徴を正しく把握し、臨床診断基準を用いて診断精度を向上させることが重要である。薬剤性パーキンソニズムでは薬剤を中止することで症状を改善できるため、適切に診断する必要がある。

・血管性パーキンソニズムとiNPHの診断には脳画像所見が重要である。しかし病態生理や神経変性疾患合併の可能性、および脳画像における異常所見とパーキンソニズムや歩行障害との因果関係については諸説がある。

DATイメージングは鑑別診断に有用であるが、PDと他の神経変性疾患を鑑別できるかどうかは明確でなく今後の研究成果が待たれる。

 

~編集者より~

 日常診療において高頻度で遭遇するパーキンソニズムですが、鑑別に苦慮する症例も多々あります。臨床的に重要と感じたのは薬剤性パーキンソニズムでしょうか。うつ病や統合失調症などでスルピリドやハロペリドール、オランザピンなどが開始となり寡動や固縮、歩行障害を生じADLが低下している患者さんはしばしば見かけます。

 直近のコラムとしてはMovement Disorder SocietyからMSAの新診断基準が発表されており、従来のConsensus Criteriaよりも感度が高くより早期からMSA患者さんを検出することができるようになっています。

 パーキンソニズムの鑑別には、病歴、薬剤歴、臨床所見、画像所見などを踏まえた総合的な判断が必要になってくると考えられます。

 

 

編:岡大典

掲載日:2023517