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第62回米国神経学会(AAN)に参加して

 第60回(ボストン),第61回(シアトル)に次いで,今年もカナダのトロントで4月10日から17日まで開催された第62回American Academy of Neurology Annual Meetingに参加して来ましたので報告します.
 4月10日午後5時に成田を発ち,同日の午後4時にトロント着.12時間以上の長旅で,日本とトロントとの時差は13時間である.トロントは池田先生や山内先生が留学していたところでで,カナダで最大の都市である.AANは,トロントで一番高いCNタワーとブルージェイズの本拠地のロジャース・センターに隣接している「トロント・コンベンションセンター」で開催された.この学会は前半に別料金のかかる教育コース(朝から夜まで140位のいろいろなコースがある)が多く組まれ,後半が講演や口演・ポスターなどの通常の学会となっている.



 11日は,夕方に参加受付を行い,6時からのCerebration for Researchに参加した.6時-8時までは,Neurobowlが行われた.それは2つのチームが画像やビデオを見ながらクイズ方式で楽しく診断能力を競うものである.前半は米国とカナダの代表5-6名ずつが対戦し,後半は前半の勝者のカナダチームが世界選抜チームと対戦した.例年,どのような疾患が出されるのか,日本で経験した症例と比較しながら自分でも診断当てができるので楽しい時間帯であった.そのときに出された症例で記憶に残っている疾患を挙げてみると,ビデオでは,Wilson病,Serotonin症候群,てんかん,ヒステリー,偽性アテトーゼ,認知症(AD,FTD),不随意運動など,MRIではMS,CP angle tumor, etat crible,Hallervorden Spatz病,Fabry病の眼底,Lyme病による両側顔面神経麻痺,筋萎縮,組織では筋sarcoidosis,アミロイソーシスなど多彩であった.その後は軽食が出され,音楽の演奏やダンスなどが行われたが,ワインを飲みながら軽食を食べてホテルに戻った.
 12日は朝9時から夕方5時までのTherapy in Neurology(210ドル)に参加した.300名以上の参加があり盛況であった.Dementia,Epilepsy, Parkinson病,脳血管障害,神経筋疾患,急性の中枢性ウイルス感染症の治療,MSと,主な7領域の神経内科的疾患についてその道の大家が45分ずつ講義をし,その途中でトータルアナライザーを用いて参加者の意見を聞きながら進行していった.質問時間は10秒で,その結果が瞬時に演者のスライドの中に表示されるので,参加者がどのように判断しているかを知ることができた.認知症の精神症状に対する薬物の選択では,クエチアピン(セロクエル)を第一選択薬とした人が63%で,薬物投与なし.リスペリドン(リスパダール),ハロペリドールの順であった.その他は,ドネペジル,ガランタミン,メマンチン,免疫療法などの話であった.てんかんの講義では,有病率が4%と高いこと,成人発症例では部分発作が90%を占めること,フェノバールやカルバマゼピンでは骨の代謝低下が進むので,ビタミンDやCaを同時に投与した方がよいこと,その他の抗てんかん薬の特徴や副作用などを中心に話された.最後に迷走神経刺激もてんかん治療に応用されているという話もあった.パーキンソン病(PD)の講義は網羅的な話であり,とくに新しいことはなかったが,PDでは最善の治療をしても発症後約20年で死亡するというのが妙に印象的であった.脳血管障害では,症例呈示,診断,治療法の選択などに関してトータルアナライザーを用いて進められた.tPAの投与は発症後3時間以上であっても画像や病態を考えて行えば有用であり,その判断ができるのが優秀な医師であると強調されていた.神経筋疾患はコロンビア大学の三本 博教授が担当された.三本先生はご存じのようにALSの専門家であるが,治療可能疾患としてGBS,CIDP,MGを中心に話され,とくにIVIgの有用性について話された.後でお聞きしたところ,血漿交換もIVIgも効果に差はないが,簡便さからIVIgが選択されることが多いとのことであった.ウイルス感染とMSの講義は教科書的な内容であった.
 13日の午前中はポスター展示を見学し,その間にPresidental Plenary Sessionを聴いた.Af患者を対象に,ワルファリンと直接トロンビン阻害作用を持つ経口抗凝固薬であるdabigatranとの比較試験の報告が詳細になされ,dabigatranでは脳出血の頻度が少なく,ワルファリンと同等以上の効果と安全性が得られたことを強調していた.ワルファリンと異なり,INRなどの凝固能の検査は不要とのことで,近い将来日本でも臨床応用されそうである.午後は1時から3時まで,Integrated Neuroscience Sessionを聴いた.これも教育的色彩が強く,最新の知見をコンパクトにまとめた講演がなされた.テーマは,Frontotemporal dementia, Alzheimer病,MSA,ALSであり,最近の知見の整理に有用であった.3時半からの口演・ポスターでは,ALSのバイオマイカーの演題が数題あり,血中のフェリチン濃度が高いことが報告されていた.また,TDP-43のtransgenic miceでは運動麻痺はみられるが,TDP-43の凝集体はみられていないとのことであった.今後TDP-43のtransgenic miceの報告は急速に増加すると思われる.
 14日は久しぶりに自分でポスターを発表する日であった.朝7時半から12時までの展示で,7時半から8時半までポスター前にいることが要求されていた.医会で予行は行わなかったが,演題名はNeuropathological studies of patients with non-herpetic acute limbic encephalitisで,非ヘルペス性辺縁系脳炎,傍腫瘍性辺縁系脳炎などの10剖検例の検討と,非ヘルペス性脳炎を合併した患者と合併していない患者の卵巣奇形腫を病理学的に比較したものである.


                   ポスターの前で

Louisiana州立大学の角田先生が寄られ,その大学で神経生理をしている部署でポスドクの籍が1つ空いているので,適当な人がいたら推薦して欲しいとのことでした.希望者がいたら私まで連絡して下さい.午後はポスターをちょっと見て,隣のCNタワーの登った後,池田先生が留学されていたトロント大学へ行ってみた.学会中に会った日本からの参加者は,東大,慶応大,医科歯科大,岐阜大の先生方であり,今回は少なかったようであった.
 15日は折角トロントに行ったので,ナイアガラまで足を伸ばしてみた.29年前にニューヨークに留学していた時に2回行ったのみである.久しぶりにみるナイアガラの滝はさすがに雄大であった.学会に行った際に,その土地の周りを見学するのは,見聞を深めることと同時に明日への鋭気を養うのに有用であり,海外の学会に参加する際の楽しみの1つでもある.来年のこの学会はホノルルで開催されます.
 16日午後2時前に現地を立ち,17日の午後3時に無事成田に着いた.
                                     (岡本 幸市)

 

 

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